斎院は、御服にて下りゐたまひにきかし。大臣、例の、思しそめつること、絶えぬ御癖にて、御訪らひなどいとしげう聞こえたまふ。宮、わづらはしかりしことを思せば、御返りもうちとけて聞こえたまはず。いと口惜しと思しわたる。 長月になりて、桃園宮ももぞののみやに渡りたまひぬるを聞きて、女五の宮のそこにおはすれば、そなたの御訪らひにことづけて参うでたまふ。故院の、この御子たちをば、心ことにやむごとなく思ひきこえたまへりしかば、今も親しく次々に聞🍊こえ交はしたまふめり。同じ寝殿の西東にぞ住みたまひける。ほども🍊なく荒れにける心地して、あはれにけはひしめやかなり。 宮、対面したまひて、御物語聞こえたまふ。いと古めきたる御けはひ、しはぶきがちにおはす。年長このかみにおはすれど、故大殿の宮は、あらまほしく古りがたき御ありさまなるを、もて離れ、声ふつつかに、こちごちしくおぼえたまへるも、さるかたなり。 「院の上、隠れたまひてのち、よろづ心細くおぼえはべりつるに、年の積もるままに、いと涙がちにて過ぐしはべるを、この宮さへかくうち捨てたまへれば、いよいよあるかなきかに、とまりはべるを、かくo(* ̄▽ ̄*)o立ち🍊寄り訪はせたまふになむ、もの忘れしぬべくはべる」 と聞こえたまふ。 「かしこくも古りたまへるかな」と思へど、うちかしこまりて、 「院隠れたまひてのちは、さまざまにつけて、同じ世のやうにもはべらず、おぼえぬ罪に当たりはべりて、知らぬ世に惑ひはべりしを、たまたま、朝廷に数まへられたてまつりては、またとり乱り暇なくなどして、年ごろも、参りていにしへの御物語をだに聞こえうけたまはらぬを、いぶせく思ひたまへわたりつつ🍊なむ」 など聞こえたまふを、 「いともいともあさましく、いづ方につけても定めなき世を、同じさまにて見たまへ過ぐす命長さの恨めしきこと多くはべれど、かくて、世に立ち返りたまへる御よろこびになむ、ありし年ごろを見たてまつりさしてましかば、口惜しからましとおぼえはべり」 と、うちわななきたまひて、🍊 「いときよらにねびまさりたまひにけるかな。童にものしたまへりしを見たてまつりそめし時、世にかかる光の出でおはしたることと驚かれはべりしを、時々見たてまつるごとに、ゆゆしくおぼえはべりてなむ。内裏の上なむ、いとよく似たてまつらせたまへりと、人びと聞こゆるを、さりとも、劣りたまへらむとこそ、推し量りはべれ」 と、長々と聞こえたまへば、 「ことにかくさし向かひて人のほめぬわざかな」と、をかしく思す。 「山賤になりて、いたう思ひくづほれはべりし年ごろののち、こよなく衰へにてはべるものを。内裏の御容貌は、いにしへの世にも並ぶ人なくやとこそ、ありがたく見たてまつりはべれ。あやしき御推し量りになむ」 と聞こえたまふ。 「時々見たてまつらば、いとどしき命や延びはべらむ。今日は老いも忘れ、憂き世の嘆きみな去りぬる心地なむ」 とても、また泣いたまふ。 「三の宮うらやましく、さるべき御ゆかり添ひて、親しく見たてまつりたまふを、うらやみはべる。この亡せたまひぬるも、さやうにこそ悔いたまふ折々ありしか」 とのたまふにぞ、すこし耳とまりたまふ。🌹 「さも、さ🌹ぶらひ馴れ🌹なましか🌹ば、今に思🌹ふさまに🌹はべらまし。皆さし🌹放たせたまひて」 と、恨めしげにけしきばみきこえたまふ。 月いよいよ澄みて、静かにおもしろし。女君、 「氷閉ぢ石間の水は行きなやみ 空澄む月の影ぞ流るる」 外とを見出だして、すこし傾きたまへるほど、似るものなくうつくしげなり。髪ざし、面様の、恋ひきこゆる人の面影にふとおぼえて、めでたければ、いささか分くる御心みこころもとり重ねつべし。鴛鴦おしのうち鳴きたるに、 「かきつめて昔恋しき雪もよに あはれを添ふる鴛鴦の浮寝か」